かつて吉原に遊びに来た人が、名残惜しくて振り返った「見返り柳」のすぐそばに、創業128年の江戸の老舗天麩羅「土手の伊勢屋」がある。関東大震災で倒壊した後に建てられた店舗は、東京大空襲にあったときにも風向きの関係で辛くも焼け残り、その木造家屋は有形文化財の指定も受けて、今にかつての面影を伝えている。
店の営業時間は午前11時から午後2時まで。その味と趣を求めて、開店前からいつも長蛇の列ができている。が、本日は雨が降った寒い気候だったため、1130についてわずか30分の待ちで入店することができた。
店の売りはなんといっても穴子。別胸に穴子用の水槽を持ち、常に活きた穴子を朝締めて、その日のうちに使い切り、残すことはしない。
また、フグ、鯛などの旬の小魚も使い、ご主人の江戸前流儀へのこだわりはものすごい。
天丼のハを注文したのだが、魚がものすごく美味かった。鯛の稚魚である春子(かすご)の天麩羅は一口かじると衣もろとも身はホロリとほどけ、口内に感動を広げてくれる。実際、涙が出るほど旨かった。また、穴子は私がままで食べた中で最も、柔らかく、繊細で、天丼ハは、ものすごくボリュームがあるのだが、それでも食べ切れるぐらいのあっさり感がある。
妻が天麩羅御飯を注文し、天ぷら盛り合わせと小掻き揚げ丼が出てきたのだが、それについてきたヒラメ、フグの天麩羅もふわりと美味しく、島豆腐も存在感のある楽しさで、どれをとっても素晴らしい。
感動できる天麩羅である。
並ぶ価値はある。
ぜひお勧めしたい。