血液透析

シャント手術当日(4月29日)

シャント手術の当日となった。

以前受けた、腹膜透析移行のためのカテーテル挿入手術は、腹部への手術だったため、局部麻酔とはいえ、腸を空っぽにするためにあらかじめ下剤を飲んだり、なんだかんだと大騒ぎだったが、今回は腕への手術のため、先生もお気軽で、「まあ、2時間くらいの手術ですよ」と一言。

本来、シャント手術は簡単なので、まだ初心者の医者などが入門として執刀することが多いらしい。

しかし、現在はコロナ旋風吹き荒れ、こんな時期だからこそ、病院側も手術は迅速に、ということで、上手な先生がささっと業務をこなしてゆく。

僕の場合も、執刀箇所にささっとマジックで印を入れられ、看護婦さんと二人、徒歩で手術室へ向かった。

徒歩で!

手術というんだから、ちゃんと横になって、いろんなものをつけられて大事に看護婦さんに運んでもらわないと、こちらも心構えができないのだが。

スタスタ歩いて手術室の前まで行くと、同じように徒歩でやってきた患者さんが一人、座って待っていた。

順番待ちかい、とちょっとドキドキしていると、声をかけられ、お先に入室。

手術台に乗せられて横になる。

頭上には、テレビドラマなどでおなじみの複眼のようなライトがついている。

「先生、局部麻酔ですか?」

「局部麻酔です。意識はっきりしてますよ」

「えー!」

どうしても、という人には、寝てもらうこともありますが、基本的には局部麻酔です」と看護婦さん。

「寝ちゃう人もいるから、大丈夫ですよ」

「でも、寝てしまって、もしも寝ぼけて手を振ったりしたら、やばいですよね」

「ああ、まあ、ね」

なんとなく流され、右腕を横に伸ばされ、固定され、僕から見えないように、顔の横にシールドが張られる。

「ちょっとチクっとしまーす」

手首のあたりが少しチクリとしたが、大したことはない。

2本ぐらい?麻酔が打たれ、なんだかごちゃごちゃ触っている。

「大丈夫ですか?」

「はい、ちょっとチクっとするような」

「もう、すごい痛い事やってるから大丈夫。麻酔効いてますから」

何か触っている感覚はあるが、痛くはない。このとき、もう、メチャナイフが入っていたらしい。

麻酔が効くまで、ほんの数秒だろうか。

感覚的には、腕の脈のところを切り貼りしているっぽい。

切ったり、縛ったり。

引っ張られる感覚はわかるので、縛っているのはよくわかる。

よくわかるから、痛みが来そうで、すごく怖い。

しかし、引っ張られるだけで痛くない。

ドキドキするのが疲れる。

「この脈がどうのこうの、こっちの脈がどうのこうの」

と、先生が若い先生に実地レクチャーをしている声が丸聞こえである。

縛ったりするのを若い先生にやらしているらしい。

僕は怖くて、決して手術箇所に目を向けない。

左側にいる看護婦さんが、気を紛らわせるために、色々と話しかけてくれる。

「大丈夫ですか?痛くない?」

「何かあったら、すぐ言ってくださいね」

そう、こういう時の看護婦さんて、優しいんだよな。

以前のカテーテル挿入手術では、腰に麻酔を打つとき、横を向いた時に、抱えてくれた看護婦さんの胸に顔を埋めるような体制になった。

「怖いねー、大丈夫、大丈夫」

優しく支えてくれた看護婦さんの言葉をよく覚えている。

今日の手術では、そんな大掛かりな麻酔がないので、抱えてくれることはなかったが、それでも、励ましの言葉はとても嬉しかった。

切ったり、縛ったりの手術も佳境を迎え、作業の手が止まる。

「はい、それでは、あと、縫っておしまいですかねー」

先生の声が響き、若い先生がぬっと前に出た気配。

もう、気配でわかる。

縫うのは、若い奴にやらせようって腹だな。

痛くないが、縫っているのって、わかるんだよねー。

針を通して、糸を引っ張ってる感じ、ありありとわかる。

お袋が、縫い物をしてる感じ、あのままだ。

刺して、キューっと糸を引っ張り、刺して、キューっと糸を引っ張り。

最後、キュキュッと縛ってパチンと切った。

「はい、お疲れ様。終了です」

所要時間、1時間半。

見事なお手前でした。

手術が終わり、テープを貼って、すぐに起こされた。

看護婦さんが、ギプスを持ってきて、右腕にはめる。

ふと見ると、透明なテープを貼っているだけなので、手術痕がありあり。

縫っているのがそのまま丸見えだ。

「はい、お疲れ様でした」

「これ、歩いて帰るのですか?」

「いやいや、さすがにそれは。笑。看護婦さんに来てもらって、車椅子で帰りますよ」

さすがに、優しい看護婦さんが、病室まで、しっかり車椅子を押してくれました。

手術の夜、麻酔が切れたらどうなるんだろう、ヒヤヒヤでしたが、切った場所は、さすがに患部は熱くなりましたが、痛い!というほどのものでもなく、じわーっといつまでも熱くて、夜中にちょっと、ドクンドクンと心臓の響きが伝わって痛熱くなり、眠れなくなったので、看護婦さんを呼びました。

左手の甲に点滴の針を刺していたので、ここから鎮痛剤を入れてもらったら、すぐに楽になり、そこから安眠。

麻酔が切れた激痛に悩まされることもなく、比較的、平和な手術当日夜となりました。